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議論していくうちに、図らずも「総論賛成、各論反対」に陥ってしまうことがよくあります。私の経験では、これは意見の対立を避けた結果として、「問題」に対する理解が関係者によって異なっているためです。方向性についてはある程度合意できたとしても、議論が進んで実施項目などが明らかになってくると、各論反対という形で見解の相違が噴出してきます。しかも、問題が明確に定義されていないので、関係者が自分たちの見識や利害関係に基づいて議論するため、各論が的外れになっていることも多いのです。
一般的な日本の文化やビジネス慣習としては対立を避けるべきとされることが多いのですが、問題解決の観点からすれば、意見の対立を避けるべきではありません。好ましくない対立とは人間関係における対立であって、意見の対立は問題解決に極めて有用だからです。意見が対立するポイントが明らかになれば、それが問題解決の端緒となります。
例として、製造販売を行う会社にありがちな対立を取り上げてみましょう。本音では、製造部門は「営業部門は売上を第一に考えていて、無理な受注を繰り返しては設計・開発や生産にしわ寄せが来ている」と思っていて、営業部門は「製造部門は自分たちの都合ばかり言って、顧客の要望を第一に考えていない」と思ってます。こんな具合に部門間で感情がもつれたのでは、問題の解決は程遠くなってしまいます。
したがって、まず行うべきなのは、意見と人とを切り離して、図のように対立に注目することです。「仕様と生産計画を変更する」(D)と「仕様と生産計画を変更しない」(D’)は対立していますが、それぞれの上位目的である「売上を伸ばす」(B)と「効率を維持する」(C)は共存していて、しかも「利益を増やす」(A)という共通目的をもっています。これならば、どちらの部門も異論はなく、協力しあって問題解決に取り組むことができます。
言い方を変えれば、DとD’の論争で決着を図れば一方が勝って一方が負けるWin/Loseの関係になりますが、上位目的のBとCでは論争になっていません。ここで解決を図れば、両者ともに得になるWin/Winの関係になっています。
さて、図を精査してみると、D’には見直しの余地があることが分かります。費用比率の維持を前提として仕様や生産計画を調整できるなら、共通目的の利益向上に寄与できます。
方針に合意できて初めて、業務プロセスの改善やIT活用といった具体的な方法を検討することができます。仮に、ここまでの手順を省いて具体的な方法を検討したとしたら、技術的には妥当な施策だとしても中長期的な成功は難しくなります。問題の定義と解決策が関係者の腹に落ちていないため、継続的な業務改善が覚束ないからです。
対立を明確にすることで、解くべき問題を明確に定義でき、それによって解決策を建設的に議論できるようになります。
メーカーを中心に、日常管理として実践されている一般的なQCサークル活動では、QCサークルのメンバーは同一の職場で働いており、継続的改善を行って職場の問題を解決していくことができます。しかし別の言い方をすれば、このアプローチで解決できるのはひとつの部門で解決可能な問題に限られます。
解決のために複数の部門が協力する必要がある問題については、部門間の利害関係や思惑によっては協力が困難であり、時として部門間で深刻な感情的対立を生んでしまうことになります。当事者任せにして、協力し合って問題を解決するようにと経営層が指示すれば、その取り組みが失敗する可能性が大です。
部門をまたがる問題に取り組むには、経営層の積極的な関与が欠かせません。また、意見の対立を明白にするには関係者が腹蔵なく意見を言える環境が必要であり、その環境を醸成するのもやはり経営層の務めです。
先の例では、製造と販売が別の部門だとしていましたが、中小企業、とくに小規模企業では営業担当者を置かず、経営者が注文を取ってくることも珍しくありません。その場合は両者の力関係に明白な差があるため、営業を担当する経営者と製造を担当する社員の間で意見の対立を明確にして議論するというのは難しくなります。こうした議論は、経営者の懐の深さが試される、経営をよりよくするための試金石とも言えそうです。
2016年4月14日発行の日刊工業新聞に、連載「モノづくり革新のススメ」の記事として掲載された「対立を明確にして問題を解決する」に加筆したものです。
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Thinking with Flying Logic日本語訳